兎
赤く染まった指先を雨に濡らして洗う。
ふと虚空を見上げ話しかける。
「いるんだろ?」
静まり返った里。
雨の中を何処からともなく一匹の蝶が舞ってきた。
「…………巫(カンナギ)」
強い風が吹き、一瞬目が眩む。
『……吟珥様』
目を開けると目の前には1人の少女。
『お久しぶりです』
自分の背丈の半分もない身長。
髪は肩で切り揃えられている。
「………姫様は…?」
黒に紫の桜柄の入った着物の袖を持ち綺麗にお辞儀をする巫。
『姫様は屋敷にてお待ちになっております』
見た目は十にも満たぬ少女だが300年前から姿は変わっていない。
吟珥よりも遥かに歳は上だ。
「わかった、だが先に寄りたい所があると伝えてくれ」
巫は静かに吟珥の目を見つめた後
『承知いたしました』
と、礼をして消えてしまった。
明日は新月。