桜の幹にもたれかかり目を綴じる。

いつの間にか兎が足元でこっちを見上げていた。



「しばらくここには帰って来られないんだ」


兎の頭を撫でながら話しかける。


「お前は連れて行けないから…………」


雨は一向に降り続ける。


「好きな所へ行っていいんだぞ」



話が通じているのかいないのか、兎は相槌を打つかのように耳をピクピク動かし自分と同じ紅い瞳をじっと見つめている。



「いいな、お前は」


狼なんかじゃなく、兎だったら。

力なんて求めない。

ただ此処で生きているだけでよかったのに。

天狼?神に等しき存在?

誰が望んだ!?

こんな力、欲しくなんてなかった。





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