兎
「………吟珥は桜の花が好きでしたね」
一筋の風が草花を揺らし、桃色の花弁が舞う。
『吟珥は桜がよく似合うね』
姫様の振り向く姿に架鶴帆が重なる。
『吟珥!』
微笑みながら歩み寄る架鶴帆。
『吟珥?』
「…………架鶴帆」
「吟珥?大丈夫ですか?」
「………!?」
目の前には姫様の心配そうな顔。
幻………か。
「ははっ………大丈夫です」
「?……ならいいですが」
途端に姫様の目が曇る。
差し出される小さな手。
それが頬にあたり、顔を包みこむ。
光のない瞳。
「………血の……匂いがします」
悲しそうな紅い瞳。
「…………人間の血」