兎
「干ばつだ…もう一月も雨が降ってない…」
「山神様に…生け贄を…」
「誰か娘を捧げねば…」
「架鶴帆だ!あいつなら親も死に別れていない」
緑の葉が太陽の光を反射して眩しい。
桜の幹に寄りかかりうつらうつらしていると、遠くから名前を呼ばれた気がして顔をあげる。
「吟珥〜!」
大きく手を振りながら架鶴帆が走ってくる。
「やぁ架鶴帆、どぉしたんだ?」
俺の前まで来て、大袈裟なくらい肩を上下させている。
「あっ…あのね!」
頬を蒸気させている架鶴帆の手には……
「………兎?」
「そぉ!!今日ね!山で捕まえたの!!」
言いながら俺に向かって兎を差し出す。
「吟珥と同じ綺麗な赤い目でしょ」
ニッコリと笑う架鶴帆。
「ありがとう」