兎
桜
架鶴帆に逢えた。
500年という自分からしてみればそれほど長くもなく、しかし途方もなく長い年月。
目覚めてみれば全てが変わっていた。
「変わってないのはこの木だけか」
触れると伝わる、この場所がどう変化してきたかが。
「吟珥?」
目線を降ろせば李紅がこちらを見上げていた。
「なんだ?」
「架鶴帆様は……いえ、桜様はまた来てくださるでしょうか」
赤い瞳が宙を泳ぐ。
「来てくれるさ」
頭を撫でて「遅いから早く寝ろ」と言うと、とぼとぼと境内の方へ歩いて行く。
「来てくれるさ」
今度は自分に言い聞かせるように呟く。