兎
「そうですか、桜火殿が」
目覚めてからのことを話した。
桜のことも、桜火のことも。
「吟珥はこれからどうしますか?」
「これから……」
風で散る花弁を見上げながら姫様が言う。
あの頃のように散っても色の絶えることのない美しい庭園。
目覚めた神社の桜の木はたしかまだ新緑揺らしていた。
架鶴帆と初めて出会った時と同じように。
「俺は…まだ人間の近くにいてもいいんでしょうか」
また、架鶴帆の……桜の傍にいても。
「神に等しき者が、人界に干渉することは禁じられています」
「………………」
わかっている。
自分は自分の怒りを抑えきれず、人間を殺めた。
1人の人間に情をうつした為に、怒りに我を忘れて禁忌を侵して。
「……ですが、神は見守る者です」
反射的に顔をあげる。
姫様はこちらを見上げ、微笑んでいた。