兎
「変わったな」
目覚めてからの世界の変わりようは衝撃的だった。
小高い丘の上にある桜の樹は変わらずだったがいつの間にか神社が建っていたし、興味半分で丘を下りてみると自分の知っている風景は微かな面影は残しているものの全てが見知らぬ物だらけだった。
「これが、数百年の差か」
眠っている間の変化にまだしばらく着いていけそうもなかった。
太陽も高くなり神社へ続く石段を登っていくと懐かしい匂いが風にのって流れてきた。
「………桜?」
あの日以来、桜は神社へ訪れていない。
単に忙しかったのか、それとも故意にか。
それでもゆっくり足を進める。
「………」
桜の木の根元に寄りかかって瞼をとじている。
「桜?」
名前を呼ぶと静かに上下していた肩がピクリと揺れた。
静かにゆっくり開く瞼。
「………吟珥?」
視線が絡む。
風がさらさらと葉を揺らした。