兎
また、夢を見ていると感覚でわかった。
私は走っていた。
丘の上の桜の木を目指して。
『吟珥ー!』
名前を呼よばれると桜の幹に寄りかかっていた銀髪がサラリと揺れて顔をあげる。
『架鶴帆』
最近知り合ったばかりの人は、私の知らない名前を呼んだ。
(私の名前は桜、、、)
頭の中で、ぼんやりと否定しつつ走り寄る。
自分の身体なのに自分ではないような感覚。
目の前で自分と会話しているのは吟珥だ。
(なら、吟珥と話しているのは、、誰?)
視線がぶつかる。
頭に手が伸ばされ撫でられる。
でも、不思議と自分ではない。
他の誰かの会話を盗み聞きしている気分。