もてまん
ピッ、と音がしてレジに貸出し可能期間が表示される。
「一週間でよろしいですか? 三百八十円です」
千鶴子が、五百円玉をカウンター上に差し出した。
「先におつり、百二十円です」
繁徳はDVDを貸出し袋に入れる。
『シェルブールの雨傘』だ。
「ありがとうございました」
繁徳が貸出し袋をカウンター越しに差し出す。
千鶴子は袋を受け取ると無言で出口に向かって歩き出した。
千鶴子の歩く姿は、年寄りとは思えないほど颯爽としている。
サングラス越しなので表情は見えない。
が、ドアを閉めて店を出るその瞬間、千鶴子は左手を肩のへんまで上げて、手のひらを軽く振った。
誰もが子供の頃に踊るキラキラ星みたいに。
それが千鶴子の繁徳への合図であることに間違いはなかった。
繁徳は、店長がそれに気づかないかとヒヤリとして、目を伏せた。