もてまん
「あんた、万国博覧会って聞いたことあるかい?」
「えっと、昔、大阪であったやつですか?」
「そう、一九七〇年」
「その万国博覧会の年、あたしと繁さんは日本に里帰りしたのさ。
めったにないってことで、お姉さんも息子さんと一緒に大阪に来られてね、一緒にパビリオンを回ったのさ。
その時、あたしは始めて繁さんのお姉さんにお会いした。
小柄な、可愛い感じの素敵な方だったよ。
お姉さんはあたしたちのこと、とても喜んでくださってね、何度も何度も、繁よかったねって。
繁さんも、お姉さんが幸せそうで、嬉しそうだった。
息子さんも元気で利発そうな子だったよ」
「昔、家族でユニバーサルスタジオへ遊びに行ったんです。
伊丹空港に飛行機が着いて、空港からモノレールに乗って大阪市内へむかって、父さんが、この先に万博記念公園があるんだぞって教えてくれたな。
岡本太郎の太陽の塔がまだ残ってるって」
「そうだね、あれはインパクトがあったね」
千鶴子が思い出したようにクスッと笑った。
「あたし達は羽田から乗り継ぎいで大阪へ直行だっただろ、それもお祭り騒ぎの大阪万博へさ。
なんか日本に帰ってきたって感じがしなくてね、旅行気分だった。
日本へ帰ったのは十年間で、その一度だけだった。
十年、たった十年だよ……
ある日、繁さんは、突然いなくなっちまった」
「えっ、どこへ?」
「天国さ。
交通事故でね。
ほんと、突然の出来事だった」