もてまん
それでも、まだ信じられなくて、あたしは、ただただ、ぼうっとして何週間も過ごしちまった。
でも不思議なことに、葬儀やら、何やら、どんどん進んでいくのさ……
気がついたら、繁さんは灰になってたよ。
ヨーロッパは普通土葬なんだけどね。
望めば火葬もできるのさ。
後でジョセフィーヌが教えてくれたんだけどね。
繁さんは、遺言ってやつだね、それで自分が死んだらどうするこうするって手はずを、全て事細かに決めてあったんだそうだよ。
何でも、ジョセフィーヌの秘書をしていた頃に、彼女が繁さんにそういう仕事を頼んだことがあったんだそうだ。
その時、繁さんは、こうして面倒なことを決めておけば、残された遺族は思いっきり悲しみに浸れますねって、いたく感心していたんだって。
『でも、まさか、若い繁さんが遺言とはね……』
って、彼女も驚いてた。
遺言なんて!
まるで自分の死を予感していたようじゃないか。
でもねぇ、夢から覚めたように我に返ったら、愛する人の遺灰だけが手元にあったなんてさ。
想像してごらんよ。