もてまん
あたしには到底その現実を受け入れることができなかった。
それから半年、あたしゃノイローゼみたいな状態になっちまった。
まぁ、今で言う鬱だね。
眠れない、食べれない、歌えないになっちまったのさ。
何をしても、繁さんの想い出に結びついちまってね……
繁さんはね、そう、月に一度くらいかね、自分が早く仕事から戻ると、部屋中に蝋燭を灯してね、あたしの帰りを待っててくれた。
家の明かりがチラチラとゆらめいていたら、繁さんがあたしを待ってる合図なのさ。
あたしが帰ると、待ち構えていたようにね、
『千鶴子、疲れているのは十分わかっているけれど、僕の為に一曲歌ってくれないかい』って……
そしてあたしは、彼の為だけに、ピアノを弾きながら歌う。
疲れて、もうどうにも目を開けていられなくなるまでね。
最高に幸せな時間だったね……
歌うとさ、そんな想い出がこみ上げてきて、どうにもできないくらい辛くてね……