もてまん

それがさ、あたしがそうやって鬱の淵に沈んでいる間に、ジョセフィーヌに死の病が襲いかかっていたのさ。

肝臓癌だった。

繁さんの死でショックを受けて、急に症状が進んだらしいのさ。

調度半年後だったよ、ジョセフィーヌが亡くなったのは。

彼女の葬儀も遺言通りに、手際よく執り行われた。

あっという間にお墓の中さ。

驚いたことに、繁さんのお墓の隣でね。

と言うより、繁さんがジョセフィーヌの隣に墓所を買ってたってことだったのさ。

あたしは、遺言で、

〈気持ちが落ち着いたら僕の遺灰の半分をフランスの墓に、もう半分を日本の姉に届けて欲しい〉って言われていてね。

この時、お墓に繁さんの遺灰を半分納めたのさ。

隣りにジョセフィーヌもいるし、寂しくないだろうと思ってさ。

ジョセフィーヌの死があたしを現実に引き戻してくれったっていうか。

人間死んだらお終いなんだって気付かせてくれた。

幸せの記憶はいつまでも消えないけど、それに浸っている訳にはいかないのさ。



これからも先も、あたしは人生を生きなきゃいけないんだってね」
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