もてまん
「う~ん、なんかイメージできないな」
「自分ではなかなか気づかないものなのさ」
「だって俺、好きな娘にだって、気の聞いた言葉ひとつかけられないし」
「好きな娘、いるのかい?」
「今日カラオケに誘われた子……」
「ありゃま、それは悪いことしたね」
千鶴子がすまなそうに繁徳を見た。
「親の用事だって断ってるのに、あんまりしつこく、デートでしょって言うもんだから、こう、フランシスの真似して、じっと目を見て、『俺が嘘ついてるように見えるかよ』って」
「で?」
「なんか、あんまり近くで目、見すぎて、『睫毛長いな』なんて、とんちんかんなこと言っちまって」
「で?」
「無視された」
「脈ありだね」
千鶴子は、力強く断言した。
「何でそんなことわかるんですか?」
「女の勘だよ」
(千鶴子さんの勘か……)
舞の睫毛の長い大きな瞳が、繁徳の頭に浮かぶ。
繁徳は千鶴子の女の勘が何故か当たっているような心地がしてくる。
「で、何で今、千鶴子さんはここにいるんですか?」
繁徳は気を良くして、また、千鶴子の話の続きを促した。
「あぁ、また、あたしの人生話に戻るんだね」
千鶴子は、紅茶を一口啜ると、また話し出した。