もてまん
「あたしゃ、なんとか鬱の淵からは這い上がったんだけどね、やっぱり歌う気になれなかったのさ。
毎日、繁さんとジョセフィーヌの墓参りに行ってさ、二人に色々話しかけてた。
どれ位たった頃かね……
本当にそれは突然のことだった。
あたしはここにいちゃ駄目になるって、気付いたのさ。
二人の想い出が大きすぎて、どうにもならなくなっちまった自分にね。
それで、日本に帰ろうって……
日本が嫌で出てきたのにさ……」
千鶴子の口調は悔しさを噛み潰したようだった。
「ジャックに相談したらさ、まぁ、それまでにも色々迷惑かけてたんだけどね、ステージキャンセルしたり何やらでね。
彼ったら、ほんと真剣な顔つきで、
『千鶴子、君さえ良ければ結婚しないか』って」
「ジャックって、男色家じゃ……」
重徳は驚いて、おもわず口を挟んだ。