もてまん
彼女はきっと、二時間ずっとここで、繁徳が出てくるの待っていた。
(俺、どうすりゃいいのさ? 助けてくれよ、千鶴子さん)
繁徳は、心の中で千鶴子にそう叫んでいた。
繁徳は、舞に近づくと、そっと肩に触れた。
そして、じっと舞の目を覗き込む。
舞の目には、涙がいっぱい溜まっていた。
(やばいよ)
「少しは、俺のこと信じろよ」
そう言って、繁徳は舞を引き寄せ、静かに髪をなでた。
(これで少し、落ち着くかな)
「嘘。
親のおつかいで、あんな可愛らしい花束なんて……」
繁徳の胸に額を押し付けて、舞が涙声を絞り出す。
どうやら、舞は何かとんでもない誤解をしているようだ。
しかたなく、繁徳はぐいっと舞の腕をつかむと、再び入口へ向かい、六〇一のボタンを押した。