もてまん
「はい」
落ち着いた千鶴子の声が、インターフォンから聞こえた。
その声を聞いて、繁徳は何故か安堵のため息を小さく吐いた。
「繁徳ですけど、ちょっと忘れ物」
「ああ、そうかい、今開けるよ」
扉がカチッと開く。
舞の腕をつかんだまま、繁徳はエレベータホールへ向った。
「何すんのよ、愛人に会わせる気?」
舞が涙目で繁徳を見上げて睨んだ。
「お前が信じないからだろ」
六階で降りて、廊下の奥へ進む。
ベルを押す。
中から、ドアが開く。
ドアの前に立つ二人を見ても、千鶴子はさほど驚いた様子もなく口を開いた。
「お友達かい?」
「俺が愛人宅へしけ込んだって、疑うもんだから……」
繁徳は、舞に視線を移し、千鶴子に合図を送る。