もてまん


「こんな、お婆さんでも、愛人なんて呼んでもらえると、ちょっと嬉しいね」


千鶴子は全てを見通したように、優しく微笑んだ。


「繁徳の予備校のお友達だね。

今日はカラオケ誘ってくれたんだってね、聞いたよ。

悪いね、年寄りの話相手に繁徳借りちまってさ」


(さすが千鶴子さん、飲み込み早い)


繁徳の緊張がほぐれたのと、舞を掴んだ腕が下に引きずられたのは殆ど同時だった。

舞はそのまま、へなへなと廊下に座り込む。


「ごめんな……さい」

「謝るこたぁないよ。まぁ、兎に角お上がりよ」

「でも……」

「ほら、マフィンがまだたんと残ってるしさ」

「千鶴子さんのマフィン、美味しいぜ」

「ほら、繁徳、さっさとお嬢さんを立たせておあげなさいよ」


繁徳が、舞の手を取って引き起こす。

それから、ゴソゴソとポケットを探ってハンカチを取り出すと、舞に差し出した。


「ほら、涙ふけよ」

「うん」

(なんか、素直じゃん)


舞がハンカチを目に押し当てるようにして涙をふいた。

その仕草が、子供のようで可愛いと、繁徳は思う。


「これ、洗って返すね。

あれ、髪切った?」

「あ、うん」

「昔のシゲに戻ったみたいだね……」


涙を拭いて顔を上げ、舞が嬉しそうに笑った。
< 116 / 340 >

この作品をシェア

pagetop