もてまん
「こんな、お婆さんでも、愛人なんて呼んでもらえると、ちょっと嬉しいね」
千鶴子は全てを見通したように、優しく微笑んだ。
「繁徳の予備校のお友達だね。
今日はカラオケ誘ってくれたんだってね、聞いたよ。
悪いね、年寄りの話相手に繁徳借りちまってさ」
(さすが千鶴子さん、飲み込み早い)
繁徳の緊張がほぐれたのと、舞を掴んだ腕が下に引きずられたのは殆ど同時だった。
舞はそのまま、へなへなと廊下に座り込む。
「ごめんな……さい」
「謝るこたぁないよ。まぁ、兎に角お上がりよ」
「でも……」
「ほら、マフィンがまだたんと残ってるしさ」
「千鶴子さんのマフィン、美味しいぜ」
「ほら、繁徳、さっさとお嬢さんを立たせておあげなさいよ」
繁徳が、舞の手を取って引き起こす。
それから、ゴソゴソとポケットを探ってハンカチを取り出すと、舞に差し出した。
「ほら、涙ふけよ」
「うん」
(なんか、素直じゃん)
舞がハンカチを目に押し当てるようにして涙をふいた。
その仕草が、子供のようで可愛いと、繁徳は思う。
「これ、洗って返すね。
あれ、髪切った?」
「あ、うん」
「昔のシゲに戻ったみたいだね……」
涙を拭いて顔を上げ、舞が嬉しそうに笑った。