もてまん



予備校の盆休みは数日だ。



繁徳は息抜きもかねて、家族の墓参りに同行した。

黒澤家の墓は、多磨霊園の中にある。

繁徳の祖母は遺言で、もともと在る黒澤の墓とは別に墓所を買い、加えて先に亡くなった彼女の弟の分も墓所を買って、できるだけ近くに埋葬して欲しいと言い残したのだ。


(婆ちゃんは爺ちゃんと仲、悪かったのかな)


繁徳は、祖母から祖父の話を、そう言えば聞いたことがないと思い至った。


照りつける日差しも、墓所の中の木立の中では少し和らぐ。

車を運転しない黒澤家では、電車を乗り継いでの墓参りだ。

それでも都内なので、中央線武蔵境駅で西武多摩川線に乗り継いで、ドアツードアで小一時間。

入口の管理事務所で桶と柄杓を借りて墓所に向かう。

黒澤家の墓所は九区の中央あたり。

祖母の弟、父正徳の叔父の墓は、十七区。

さすがに真隣りの墓所というのは無理だったようで、それでも、できるだけ近くの墓所を買い求めたのだそうだ。


(それにしたって、こんなに沢山墓があって、それでもなるべく近くに葬られたいって気持ち、俺にはわかんないな)


それはただ、祖母が、墓参りに訪れる繁徳達家族を思いやってのことだったのか。
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