もてまん
「あら、またお花が供えてあるわ」
繁の墓所に着くなり、幸子がそう呟いた。
「それ、キキョウの花だね」
「あら、繁徳、良く知ってるわね。
毎年、お墓参りに来ると、この花が供えてあるのよ。
誰かしらね」
「繁叔父さんは、フランスで結婚してたって聞いてるが、奥さんが今日本にいるかどうかは判らない。
何せ、彼が死んだ後、一度お遺灰の一部を持って家を訪ねて来て、それっきり会ってないからな」
「父さん、奥さんに会ったことあるんだ」
「二度だけな」
「一度目は大阪万博の時。
繁叔父さん夫妻とお袋と四人でパビリオン見学した。
二度目は繁叔父さんが死んだ後の、その時さ。
何でも突然の交通事故だったらしい。
まだ若くて綺麗な奥さんだったよ。
父さんが自動車の運転免許を取らなかったのも、繁叔父さんが自動車事故で亡くなったからさ。
お袋は、彼のことがあったから、絶対に免許を取ることを許してくれなかった」
正徳の話に、繁徳の疑念は確信に変わった。