もてまん
「俺も、駄目なのかな?」
繁徳はバイトでお金を貯め、大学に合格したら、免許取ってバイクを買うつもりでいた。
「今の時代、免許もないと就職にもひびくだろ。
車に乗るか乗らないかは、お前に任せるさ。
父さんは仕事がらもあるが、免許がなくて不自由と思ったことはないがね。
ただ、安全には気をつけろよ」
正徳は事も無げにそう言った。
「そう、安全運転でね」
「まだ、免許も取ってないぜ。
この浪人生活から抜け出てからゆっくり考えるよ」
繁徳は何だか複雑な気持ちで、そう答える。
視線を墓石に移すと、そこには坂井繁と大きく刻まれていた。
(やっぱり、間違いない)
それは、千鶴子の夫、繁の墓だった。
(でも、墓石に名前まで刻むって……)
これは繁一人の墓なのだ、と繁徳は思う。
(婆ちゃんや千鶴子さんにとっての、最愛の繁さんか……)
繁徳は墓石に水をかけながら、会ったこともない繁に話しかける。