もてまん
居間には、ほろ苦く、甘い匂いが立ち込めていた。
「今日は、チョコブラウニだよ」
そう言って、千鶴子が机の上のバスケットを開けた。
「これも、混ぜて焼くだけですか?」
「そうだよ、当たり前だろ」
「でも、これにはミルクが合うんだよ」
そんなやり取りの後、千鶴子は大きなグラスに牛乳を並々と注いだ。
バスケットの中には、四角く切りそろえられたチョコレート色のケーキが沢山入っている。
繁徳は、そのひとつを摘んで口に入れた。
ほろ苦甘いチョコの味が、口の中でとろりと溶けた。
(うわぁ、甘い)
繁徳は、急ぎ、牛乳を口に含む。
冷たい牛乳の円やかな甘みで、口の中がココア味に染まる。