もてまん

その時、居間のドアを軽く叩く音がした。

舞が練習を終えてやって来たのだ。


「千鶴子さん、ありがとうございました」


舞は居間へ入ってくると、千鶴子に軽く頭を下げた。

そして繁徳の方を向いて、笑った。


「シゲ、元気?」

「一週間前に会ったばかりだろ」


繁徳は舞の笑顔に少しうろたえて、わざとぶっきら棒にそう言った。


「まあ、そうだけどね。予備校の外では会うことないしさ」

舞は少し寂しげに、そう呟いた。


「何だ、あんた達、デートとかしないのかい?」


千鶴子が、本当に驚いたという感じで二人を見た。


「だって、お互い浪人生だしな」


舞はうなずかない。


(なんだよ、舞、同意しろよ)

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