もてまん


「行こう!」


舞に引きずられるように歩き出す。



(どうなってるんだよ、千鶴子さん。なんか舞に吹き込んだのか?)



舞はパルコの前の花屋で足を止めると、花を選び始めた。

「千鶴子さんは、キキョウが好きなんでしょう?」

そう言って、繁徳を仰ぎ見た。

その顔はいつもの通りの屈託のない舞で、繁徳は少し安堵する。

「う~ん、でもキキョウの花言葉は〈変わらぬ愛〉だぜ。

俺たちがあげるんだから、舞の好きな花でいいんじゃない」

「そうだね。

スイトピーってどうかな、可憐な感じが千鶴子さんぽくない?」



(可憐ね。あの大胆さを可憐というか)



舞の千鶴子の印象は、可愛く可憐なお婆さんなのだ。



(可憐な強さと言えなくもない……か)


と、繁徳は頷いていた。

舞は、ピンク色のスイトピーと白い小菊を選ぶと、手際よくリボンの色や包装を指示して、代金を支払った。


「ピアノのお礼を兼ねて、あたしからってことでいいかな。

でも、渡すのは、男性からね」


舞は出来上がった小さなブーケを花屋から受け取ると、直ぐにそれを繁徳に手渡した。


「わかったよ」


繁徳がブーケを左手に持ち換えると、舞がまた腕を組んできた。


今度は、もう、繁徳は驚かない。


舞の自然な仕草が、繁徳に考える余地を与えなかったのだ。
< 145 / 340 >

この作品をシェア

pagetop