もてまん
ダイニングバー<深海>


ビルの地下、穴蔵に潜ったようなその店は、意外にも店内は広く、ちょっとした演奏をするのに十分だった。


入口では、蝶ネクタイの老紳士が待ち構えていて、緊張する繁徳達を席に案内してくれた。

店内は薄明かり。

でも人の顔は、意外にはっきりと見える。

(きっと、暗い場所と明るい場所の明暗の差が大きいから薄暗く感じるんだろうな)

と、繁徳は千鶴子の昔話を思い出し納得した。


一つ一つのテーブルが、スポットライトで島のように照らされていて、店中央奥にグランドピアノが置かれている。


繁徳達の席は、丁度出口とピアノの中央、壁際。


「何か、ドキドキするね」


舞の緊張した声を聞いて、繁徳は、反対に少し落ち着きを取り戻す。


そうこうしていると、先ほどの老紳士が、メニューを持ってやって来た。
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