もてまん
しばらくすると、シャンパングラスに入ったジンジャエールが運ばれてきた。
グラスをテーブルに置くと、老紳士がまた、二人に向かって軽くウインクする。
「うわぁ、なんか大人っぽい。
シゲ、乾杯しよう!」
「何にだよ」
「あたし達の初デートに決まってるでしょ」
繁徳は舞に無理やりグラスを近づけられ、二人のグラスは明るい音を響かせて揺れた。
無理やり、と言っても、繁徳は気恥ずかしいだけで悪い気はしない。
自分じゃとても舞をデートに誘ったりできなかったと、繁徳は千鶴子に感謝した。
七時。
サラダが運ばれて来た頃、ピアノの横にスポットがあたった。
年の頃、四十前後の綺麗な女の人が、マイクに向かう。
「皆様、今宵は当ダイニングバー〈深海〉にようこそお越しくださいました。
今夜のホステスは私、綾が、そして皆様と歌の旅路をご一緒させていただくのは、岩下千鶴子と城颯(ジョウハヤテ)でございます。
どうぞ、お時間の許す限り、ごゆっくりとお過ごし下さいませ……」
スポットライトが静かに消えていく。
程なく女性の姿は、闇のなかへと見えなくなった。