もてまん
「次の二部までいると遅くなるからね、この休憩の間に帰るんだよ。
あたしゃ、裏で、何か少しつまんでくるよ」
「千鶴子さん、何時からご旅行、行かれるんですか?」
席を立とうと、腰をあげた千鶴子に舞が尋ねる。
「月曜の朝からだよ」
「しばらくお会いできないから、今日のお礼に、日曜、私のピアノを聞いて頂けませんか?」
「聞かせてくれるのかい?
そりゃ、嬉しいね。
じゃあ、日曜の十時でどうだい?
午後だと慌ただしいからね」
「俺も行っていいかな?」
「シゲも聞いてくれるの?」
「舞さえ良ければ……と、千鶴子さんが良ければ」
「あたしの了解は無用だよ」
千鶴子の口調はあくまで冷静だ。
「じゃあ、シゲも来て」
舞はそう言いながら、繁徳に目で合図を送った。
その目は、繁徳の隣の椅子の座に置いた花束に注がれている。
(あっ、そっか……)
繁徳は慌てて、花束を手に取った。