もてまん
駅から歩いて二十分ほどのところに舞の家はある。
店を出て、駅までの道のりを二人並んで歩いていた。
駅から舞の家の近くまではバスも出ている。
この時間なら、まだバスにも間に合う筈だ。
このまま二人並んで歩く緊張感に耐えかねて、繁徳は舞に声をかけた。
「バス、乗るか?」
「あたし、歩きたい。シゲは?」
舞にそう言われると、繁徳も悪い気はしない。
こんな夜がそうある訳でもない。
ゆっくり舞と二人で話す機会など、昼間の予備校では有り得ない。
「俺は、どっちでも……」
「じゃあ、歩こう」
舞がするりと繁徳の腕に自分の腕を滑り込ませる。
繁徳はもう驚かない。
(だけど舞、あんまりくっつくと歩きにくいよ)
舞の柔らかな胸のふくらみが、歩くたび、繁徳の腕に触れた。
「シゲ、今日でちょっとはあたし、シゲにとって特別になったかな」
「特別って何だよ」
「友達以上ってことだよ」
舞が、繁徳の同意を促すように腕を揺すった。