もてまん



「シゲ……」




舞が自分の額を繁徳の額にコツンと当てる。

そして、静かに話し出した。

「千鶴子さんがね、あたしがシゲのことが好きだって告白したら、あんたはバージン捨てる覚悟はあるのかいって聞くの。

千鶴子さんて、時々へんなこと言うじゃない?

今どきの若者は、中学でバージンなんて捨ててる子、一杯いるのにね。

千鶴子さんは、二十五歳の時、あせって本当に好きでもない人にバージンあげちゃったんだって。

だから、あたしには、本当に好きな人と最初のセックスをするべきだって、お説教するのよ」

「舞……」


繁徳はバスケ部の同級生が、彼女とのセックス話を自慢するのを思い出した。


(そうだよな、今どきバージンなんて希少だよな。

ま、俺も希少な一人だけど。

キスだって、今日が初めてみたいなもんだし……)


繁徳の頭には、幼稚園の頃、砂場でした近所の由佳ちゃんとのキスが甦る。

由佳ちゃんは、泣き出して、周りのベンチで話し込んでた母達が慌てて砂場に駆け寄った。

『シゲちゃんが、なめた……』と、由佳ちゃんが泣きじゃくって。

その言葉を聞いて、周りの母達がどっと笑った。

母幸子は一人、いたたまれない様子で繁徳を見つめていた。

それ以来、繁徳は自分から女子に近付くのに抵抗があるのだ。
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