もてまん
「あたし、今日のこと一生忘れない」
見つめ合う舞の瞳の中に、繁徳は本当の自分が写っているのを感じた。
「俺も、だな」
二人の寄り添う姿が、水銀灯の淡い光に照らされて地面に影を落とした。
昼間の暑い空気を拭い去るように、ほんの少しの風が、ひしめく建物の間を吹き抜ける。
繁徳は舞の額から自分のおでこを離すと、体勢を立て直した。
ベンチ深くに身を預け、ペットボトルのキャップをひねると、コカコーラを一気に飲み干す。
火照った身体が、喉もとから冷やされていく。
その横で、舞もベンチに座り直し、身仕舞いを整えた。
「あたし、そろそろ帰らなきゃ」
「そうだ、足、大丈夫か?」
「ふふ、絆創膏貼るの忘れてた。水も飲み忘れちゃったよ」
舞が手に持っていたはずの絆創膏を目で探す。
貼り忘れられた絆創膏は、ベンチの下に落ちていた。