もてまん
「家まで送るよ」
そう言った繁徳の言葉を舞は慌てて制した。
「大丈夫、もうすぐそこだから。
親に見られるとうるさいから、そこの角から見送ってよ。
あたしの家、そこの通りをずっと真直ぐ行って、二本目の角曲がってすぐのとこだからさ」
舞はペットボトルを手に取ると、ベンチから先に立ち上がった。
「シゲ……」
舞が繁徳の手を軽く引き、二人は手を取って、公園を出た。
「じゃ、あたし行くね」
繁徳の手を振り切るように離すと、舞は公園の前の道を真直ぐに歩いて行く。
「シゲ、おやすみ。
日曜、十時、忘れないでね」
舞が振り向いて、少し控え目に叫んだ。
繁徳は右手を軽く上げて、オッケーのサインを返す。
舞は、それを確認すると、また前を向いて、そのままどんどんと歩いて行った。
そして、曲がる手前でもう一度振り向いて、左手を上に大きく上げ、手のひらを軽く振った。
子供の時に踊った、キラキラ星のおゆうぎみたいに……
舞の姿が通りから消えた。
ひとり立ちすくむ繁徳の耳の奥で、
『シゲ……』
と、舞の澄んだ声が木霊する。
「俺の舞……」
繁徳は、自分の呟いた声に、気恥ずかしくなる。
その気持を振り払うように、繁徳は家路に向けて、勢い良く最初の一歩を踏み出した。