もてまん
繁徳は気落ちする正徳の様子を見て、幸子の言葉を思い出していた。
(何を悩んでるんだろう、父さんは……)
それはきっと、幸子に関係あることに違いなかった。
同じ家の中にいる三人が、それぞれに違う悩みをかかえて、一人で必死に立っている。
家族って、何なんだろう。
親子って何なんだろう。
夕食の支度を始めた幸子の包丁の規則正しい音が響く。
正徳は、釣り道具を一つずつ、丁寧に仕舞い始めた。
繁徳は黙々とそれを手伝いながら、無口になった彼の横顔に無言で話しかける。
(父さん、月曜、晴れるといいね)
繁徳は、心からその日二人で釣りに出かけられることを願った。