もてまん

繁徳は気落ちする正徳の様子を見て、幸子の言葉を思い出していた。


(何を悩んでるんだろう、父さんは……)


それはきっと、幸子に関係あることに違いなかった。

同じ家の中にいる三人が、それぞれに違う悩みをかかえて、一人で必死に立っている。

家族って、何なんだろう。

親子って何なんだろう。

夕食の支度を始めた幸子の包丁の規則正しい音が響く。

正徳は、釣り道具を一つずつ、丁寧に仕舞い始めた。

繁徳は黙々とそれを手伝いながら、無口になった彼の横顔に無言で話しかける。



(父さん、月曜、晴れるといいね)



繁徳は、心からその日二人で釣りに出かけられることを願った。
< 177 / 340 >

この作品をシェア

pagetop