もてまん
舞とピアノ
九時半、繁徳は家を出た。
大通りの坂を上がって、花屋の店先で、再び足を止める。
(買ってくか……今日は舞に)
繁徳が手に取ったのは、やっぱりキキョウの小さな花束。
お店の人が、「そろそろキキョウも終わりですよ」と声を掛けてきた。
(そうか、夏の花なんだ、キキョウって)
しみじみとキキョウの花を眺めながら歩く。
千鶴子のマンションの入口には、既に舞が来て待っていた。
「シゲって、時間、正確だね。また花束だね、千鶴子さんに?」
「何だよ、いけないか」
繁徳は見つかってしまった花束を、後ろ手にして慌てて隠した。
「ううん、シゲらしいなって、それだけ」
舞はクスクスと笑って、その様子を眺めていた。