もてまん
(嗚呼、この曲なら俺も知ってる)
それは、実に威勢のいい曲だった。
繁徳の座る位置からは見えないが、舞のその指が驚くほど早いスピードで動いていることが想像できた。
狭いレッスン室は、舞の奏でるピアノの音で、はち切れんばかりに震えているようだった。
舞の細い身体の、どこにこんな力強さが潜んでいたんだろうか、と繁徳は思った。
と同時に隣りに座る千鶴子を見る。
千鶴子は目を閉じて、膝の上で右手の指を弾ませながらリズムを取っていた。
<バァ~ン>
と曲の最後の音がピアノ室に響いた。
(舞、上手かったよ、俺、感動だ!)
と、繁徳が立ち上がろうとした瞬間、隣りで千鶴子の声がした。
「スローな曲も一曲、弾けるかい?」
「ベートウェンのピアノソナタ〈月光〉なら」
「いいね」
舞は再び大きく息を吸い込むと、ピアノの上に踊りかかった。