もてまん
「舞さん、はっきり言うがね、あんたには音を操る才能があると思う。
あたしにはなかったものがね」
「……本当ですか」
舞の上ずった声が部屋に響いていた。
「でもね、あんたも解ってると思うけど、ピアノをやるには才能だけじゃなく、ピアノを引き続ける努力が必要なんだよ。
それには、お金もかかる。
まずは親御さんの理解を得ないことには、続けるのは難しいんじゃないかね」
「……わかっています。
でも……」
「あんたが、もし、本当に心から、ピアノを続けたいと願うのなら、きっと道は開けると思うよ。
あたしも応援するし、たぶん、繁徳もね」
「母が許してくれるでしょうか……」
「時間はかかるかもしれないけどね、きっと、いつか解って下さるよ。
あたしもね、今日聴いて、あんたのピアノがお嬢様のお稽古程度の器量だったら、きっぱりと、普通の大学受験を勧めるつもりでいたんだ。
ピアノは趣味で続ければいいってね。
でも、あんたのピアノには心がある。
あたしがシャンソンを歌うのと同じように、あんたはピアノで歌ってるんだなって感じたよ」