もてまん
玄関の中は明るく、白一色で統一され、生活感がないほどに整然と片付けられていた。
その中で、千鶴子は凛として立っていた。
「あの~これ~」
と、繁徳は手土産の小さな紫色のブーケを差し出した。
「これ、あたしにかい?」
千鶴子が、遠慮勝ちにブーケを手にとった。
「嬉しいね、気が利くじゃないか。
この青紫色の花、知ってるかい?
キキョウだよ。
やっぱり、あたしの目に狂いはなかったね」
千鶴子はそう言うと、嬉しそうに花の匂いをそっと嗅いだ。
「おあがりよ」
千鶴子は、ブーケを左胸に大事に抱え、後ろを振り返ることなく廊下の奥へと進んでいく。
繁徳は急いで運動靴を脱ぎ、振り向いてきちんと靴を揃えた。
誰に見咎められるということも無いはずなのに、緊張していたのだ。
(もう逃げられないぞ、いいのか?)
繁徳は自分にもう一度問いかけた。
だが、答えを見つけられないまま、足は千鶴子の後を追い、廊下の奥へと進んでく。