もてまん

「じゃ、お土産楽しみにしておいで」

(お土産って、千鶴子さん何処へ行くって言ったっけ?)


千鶴子の口調はまるで二泊三日の温泉旅行に行くようだ。


「千鶴子さん、何処へ行くんですか?」

「……内緒だよ」

「二週間っていったら、遠くでしょう?」

「そうだね、遠くだね」


繁徳の問いかけに、意味有り気に言葉を濁す千鶴子。


(何処へ行くか、言いたくないんだ……)


繁徳は千鶴子の思いを汲み取って、そのまま受け流した。

「じゃあ、まあ、気をつけて……」

「嗚呼、気をつけるよ」

その口調からすると、どうやら楽しい旅行という感じではなさそうである。

繁徳は千鶴子の様子も気がかりだったが、舞の元気の無さがもっと気にかかかっていた。

舞は千鶴子の言葉に頷いた後、心ここに在らずという感じで放心していたのだ。
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