もてまん
舞の事情
二人がマンションから出ると、もう陽は真上に昇っていた。
「舞、腹減らないか?」
「うん、ぺこぺこ。あたし、朝、殆んど喉通らなくって」
「マックでも行くか」
「賛成」
にっこり笑って頷いた舞だったが、それでもいつもの様子とはどこか違う、と繁徳は思った。
さすがに真昼間ということもあり、先日のデートの時のように舞が繁徳の腕に手を伸ばしてくるとは思えなかった。
繁徳と少しの距離をおいて舞が歩く。
二人の距離間が今の気持ちのズレを表していた。
その時、繁徳の中で、気恥ずかしさよりも寂しさの方が勝った。
繁徳は思い切って手を伸ばし、舞の手を掴んだ。
「シゲ、いいの?」
舞が驚いたように繁徳を見上げた。
「誰かに見られるかもよ」
「見られて悪いこと、あるかよ」
「そうだね」
舞が嬉しそうに笑う。
あんな凄い音を出してピアノを弾いていた舞の手は、それでもやっぱり小さく薄い女の手だ。
こんな華奢な手で、よくあんな音が出せるもんだと、繁徳は不思議に思った。
そして、手を繋いだだけなのに、舞の気持ちに寄り添えたような気がして繁徳は安堵した。