もてまん
「ママは先生にそう言われると、あたしにピアノはもう止めなさいって……
で、代わりにどうしたかって?
有名私立の女子高受験よ」
「なんだ、舞、都立第一志望じゃなかったのか」
繁徳の言葉がまた宙に浮く。
(舞、いったいお前、何が言いたいんだ?)
「次の週から塾通いが始まって、ピアノには鍵がかけられちゃった。
あたしもまだ十四歳じゃない、ママの言うことは絶対だったから、諦めて一生懸命勉強した。
成績優秀だったんだよ」
「だろうな」
「でも、成績が上がって、あたしの順位がトップに近づくに連れてママの機嫌が悪くなって……
で、受験の日、あたし答案用紙を白紙で出したの」
「えっ?」
「あたしが落ちればママが喜ぶって、分かってたからね」
「それって、どういうことだよ」
繁徳は驚いて、舞の顔を凝視した。