もてまん
五時四十五分。
海浜公園堤防前のゲートはまだ閉まっていた。
ゲート前には十人ほどの列。
(みんな、早いな)
繁徳は正徳と顔を見合わせる。
「近所に住んでる人は、いいね、父さん」
「そうだな」
ここまで、電車とバスを乗り継いで小一時間。
いつもは便利で楽してる、都会暮らしの代償だ。
六時。
開場と同時にみんなが堤防の先端目指して進んでいく。
こんな早朝から並んでる、釣り好きの考えることはみな同じだ。
海より先端から順番に場所が埋まっていく。
繁徳達も無事、先端よりの場所に腰を落ち着け、準備を始めた。
今の季節は、クロダイ、アジ、ハゼ、フッコ、結構いろいろ釣れる。
仕掛けに弱い繁徳は正徳に尋ねた。
「父さん、今日は何ねらい?」
「そうだな、クロダイかアジ」
「夕食用に?」
「釣れればな」
釣りに行く時は、いつも準備は正徳の担当だ。
繁徳はお供と相場が決まっている。
繁徳は釣りが嫌いではないが、のめりこむほど好きでもない。
親子一緒に釣り糸を垂れる、その静かな時間が好きなのだ。