もてまん

「いや、父さんも最近、色々考えててな。

父さん、今、四十七だろ、会社でも研究所の副所長だ。

でもな、父さんの研究テーマは元々、水の効率的な浄化システムだ。

繁徳もそのくらいは知ってるだろ?」


「うん、浄水器の開発チームだったって、母さんから聞いてるよ」


「人間は空気と水がなければ生きていけない。

日本は水に恵まれた国だから、父さんの研究も単なる浄水器のフィルターに化けちまってるけどな。

世界には、水の浄化に苦労してる国がいっぱいあるんだ。

それこそ死活問題なんだぞ」


「そうだね」


「だから、父さんは自分の研究テーマに自信を持ってた。

人類の為になる研究だってな。

だが、今は、しがない管理職だ。

開発スケジュールの管理や人事査定、そんな慣れない仕事に汲々とした毎日を送っている。

そりゃ、給料は上がったさ。

でも、父さんにとってはそれだけなんだ」
< 211 / 340 >

この作品をシェア

pagetop