もてまん
「いや、父さんも最近、色々考えててな。
父さん、今、四十七だろ、会社でも研究所の副所長だ。
でもな、父さんの研究テーマは元々、水の効率的な浄化システムだ。
繁徳もそのくらいは知ってるだろ?」
「うん、浄水器の開発チームだったって、母さんから聞いてるよ」
「人間は空気と水がなければ生きていけない。
日本は水に恵まれた国だから、父さんの研究も単なる浄水器のフィルターに化けちまってるけどな。
世界には、水の浄化に苦労してる国がいっぱいあるんだ。
それこそ死活問題なんだぞ」
「そうだね」
「だから、父さんは自分の研究テーマに自信を持ってた。
人類の為になる研究だってな。
だが、今は、しがない管理職だ。
開発スケジュールの管理や人事査定、そんな慣れない仕事に汲々とした毎日を送っている。
そりゃ、給料は上がったさ。
でも、父さんにとってはそれだけなんだ」