もてまん
「今の仕事は、父さんのやりたい事じゃないって事?」
「はっきり言えばな」
「研究者に戻れないの?」
「今の会社じゃ、無理だろうな。
それに、父さんには、家庭を守っていく責任もある。
繁徳もまだ大学が残ってるし、院に行くとなったら、あと六年は頑張らないとな」
「何だ、俺の学費のことか。
いざとなったら、奨学金とか貰えばなんとかなるんじゃないかな」
「お前は、そういうとこクールだな。
母さんと似てる。
母さんも親からの援助一切無しで、奨学金貰って大学卒業したんだそうだ」
「えぇっ、初耳だよ」
「母さん、そういう自分の苦労話はしないからな」
「母さんと出会ったのは、今の会社でだから、父さんもそう詳しいことは知らないが、会社に入ってからも奨学金を返すのに、慎ましい暮らしをしていたようだよ。
まぁ、父さんとしては、そんな人生を真剣に受け止めてる、母さんの真面目な生き方に惹かれたってのもあるがね」
「そう言えば、母さんの方の爺ちゃん、婆ちゃんの話って聞かないね。
俺はてっきり、もう以前に亡くなったんだとばっかり思ってた」