もてまん
(って、それか? 夫婦の間のわだかまりって)
「母さんに話してみなよ、父さんの夢。
母さんの、人生真剣に受け止めてるとこが好きだって、父さん言ったじゃないか、さっき」
「そうだな、父さんの思い込みかもしれないな」
繁徳は、幸子の嬉しそうな顔を思い浮かべた。
正徳の不自然な態度が、そんな不器用な思い込みからだったとは。
幸子はきっと笑うだろう。
わだかまりは一瞬にして溶かされるに違いない。
(俺の母さんはそういうとこ、妙に物分りいいからな)
正徳が語ったように、それは皆の知らないところで苦労してきたせいかもしれない。
千鶴子に似てると思ったのも、そんな雰囲気のせいかもしれなかった。
「おっ、繁徳、引いてるぞ」
繁徳の釣り糸が、水面で大きく上下する。
(引きが強いな、クロダイか?)
釣り糸を繰りながら、繁徳は幸子の顔を思い浮かべた。
(母さん、夕食、期待してて)
大漁の予感が、繁徳の脳裏をよぎった。