もてまん
舞の動揺
夕飯のアジフライは美味かった、と繁徳は昨夜のことを思い出していた。
結局クロダイは一匹もかからなかったが、アジは大小取り混ぜて、十匹くらい釣れた。
大漁とは言い難いが、夕食には十分な量だった。
家族三人で囲んだ久しぶりの食卓。
幸子の嬉しそうな様子に繁徳もほっとした。
(父さん、早く母さんとゆっくり話せるといいな……)
火曜からは、また予備校生活の再開だ。
今までと違うのは、早起きして走ることと、時折感じる舞の視線。
繁徳が振り向くと、待ってましたと言わんばかりに舞と目が合った。
繁徳は回りに気付かれないように前に向き直ると、軽く右手を上げて合図する。
休み時間に舞と話す。
舞は他の女子と一緒になって、繁徳をカラオケに誘った。
繁徳はわざと、
「俺、止めとく。勉強しないとな」
と、そっけなく返事をする。
すかさず舞は、
「シゲ、付き合い悪い!」
とむくれて見せた。
そんなわざとらしい舞の演技に、繁徳は舞の真剣さを感じ取る。