もてまん
(舞、頑張ってるのかなピアノ)
繁徳も勉強を頑張っていた。
舞に負けないように。
予備校とバイトと舞と勉強と……忙しく過ごす毎日。
瞬く間に二週間が過ぎ去った。
何日に帰ると、はっきり聞いた訳ではなかったが、千鶴子が出かけてから二週間ほどたった、九月の最初の月曜の夜、繁徳の家の電話が鳴った。
階下から幸子の呼ぶ声が聞こえてくる。
「繁徳、電話よ、北島さん」
(えっ、舞?)
繁徳は慌てて階段を駆け下りた。
「女の子よ」
母が受話器を差し出してくる。
「あぁ、予備校の友達。
ノート借りてたから」
階段を下りながら、繁徳がそっけなく答えた。
「ふうぅん」
「なんだよ、あっち行けよ」
「はい、はい」
繁徳は幸子から受話器をもぎ取ると、彼女を遠ざけた。
名残惜しそうに幸子は静かに扉を閉めると居間へと戻って行った。