もてまん
「でも、部屋、結構片付いてますよ」
繁徳はくるりと部屋を眺めてそう言った。
玄関と同じように、この居間にも、白を基調にした家具以外何もない。
今、繁徳と千鶴子の座るこのテーブルの周りだけが、僅かに色付けられている。
「男のくせに、細かいところ見てるね」
千鶴子は、楽しそうにふふっと笑うと、次の瞬間、真面目な顔つきになった。
「あたしの秘密をひとつ教えてあげるよ。
几帳面じゃないから、物を極力置かないようにしているのさ。
片付ける手間がいらないだろ?」
「なるほど……」
繁徳は妙に感心して頷いた。
「このクッキーだって、材料を計って混ぜるだけさ。
焼くひと手間は省けないがね。
料理もしかり、複雑な手順のものは作らない。
あたしが歌うのだって、この身体ひとつあればどうにでもできる、そんな手軽さからかもしれないさね」