もてまん
「あっ、あたし、もう行かないと。
ママが探しに来るかもしれない……」
舞が、繁徳の腕を優しくほどく。
「おやすみ、シゲ」
そう言って、舞は繁徳の頬に軽くキスをした。
「明日、お願いね」
「あ、うん」
公園の砂利を踏み鳴らしながら、舞が後ろ向きに遠ざかる。
「ありがと、飛んで来てくれて。
嬉しかった」
舞の笑顔が眩しい。
「じゃ、明日ね」
そう言うと、舞は一目散に走り出した。
(舞の母さんて、そんなに恐いのかな)
舞の慌てようは、ただごとじゃなかった。
繁徳はそんな舞の姿を目で追い、疑われないように、と心から願った。
自転車で家に帰ると、まだ九時四十五分。
(電話してみるか)
繁徳は千鶴子に電話をかけてみた。
呼び出し音が鳴り続ける。
(本当だ、誰も出ない)
今、ここで気を揉んでも始まらない。
兎に角、明日、店に行って確かめるしかないのだ。
繁徳は気を取り直し、部屋に戻って、また机に向かった。