もてまん
三時二十分。
最後の授業が少し長引いて、出るのが遅くなった。
繁徳は、身体を右にしたり左にしたりと、渋谷の人混みをすり抜けるように、早足に急いだ。
舞の授業はとっくに終わっている。
きっともう109の前で待っているはずだった。
「ごめん……」
と、繁徳が舞に声をかけようとした時には、もう舞は繁徳を見つけて、指を店の方角へ向けて合図していた。
(何だ? 先に行けってことか?
まぁ、並んで歩くと目立つし、この間みたいに、誰かに見られると面倒だしな)
繁徳は、舞の前を無言で通り過ぎ、『深海』へと向かった。
パルコの前を過ぎ、大通りを左に曲がって、店のあるビルの地下へ下りる。
振り向くと、すぐ後ろに舞がいた。
「大丈夫、誰にも見られてないよ」
「何か、悪いことしてるみたいだな」
「ごめん、あたしのせいだね」
舞の表情が少し曇る。
繁徳は咄嗟に、
「いや、ちょっと、スリルがあっていいよ」
と、笑い返した。