もてまん

「千鶴子様は……

金曜に旅行から戻られて、私が止めるのも聞かず、その夜のショーに出られたんです。

嗚呼、私がもっと強くお止めしていれば……」


そう話す増田は、苦しそうに顔を歪めた。


「千鶴子さん、どうかしたんですか?」


繁徳が慌てて尋ねる。


「七年前と同じ発作が出て、倒れられました」

「えっ? 発作って……」

「心筋梗塞の発作です。

……長旅でお疲れになってたんです」


繁徳は増田の方が倒れそうだと思った。

彼は千鶴子の無理を止められなかった自分を責め、責めながらもその荷を負おうと踏ん張っている。

そんな風に見えたのだ。


「で、今、何処に?」


繁徳は一人冷静だった。


「東京女子医大に入院中です。

救急車でその日の内に搬送されました。

今、状態は安定していますが、まだ予断を許さない状況です」


「シゲ、どうしよう……」


舞が繁徳の腕を握ってきた。

舞の手が小刻みに震えているのが分かる。


「行こう、病院に」


繁徳は強い意志で断言した。


(千鶴子さんに会わないと)


千鶴子に会わなければ、舞のこの不安は解消されることはないと思った。
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