もてまん
「バイパス手術って、大変な手術なのよ。
胸を真ん中から大きく切って、何時間もかかるの。
手術の後も傷口が回復して、普通の生活に戻れるまで、とっても大変なのよ。
リハビリもきついしね。
でも、千鶴子さんは泣き言一つ言わなかった」
「凄いな」
「そう、凄い人なのよ、千鶴子さんて……」
「でもね、あたしが出会った頃の千鶴子さんは、四十台、今の私と同じ年頃。
まだ若くて綺麗だった。
ちょっと淋しげなところが神秘的で、子供のあたしから見ても素敵な人だった。
父と出会ったのは、六十台、もうシワシワのお婆ちゃんよ。
父がなんで、そんな千鶴子さんに惹かれたのか……
今でも不思議なの」
「タイミングじゃないですか」
「タイミング?」
「そう、出会うべき時に、出会うべき人と出会ったってこと。
これも千鶴子さんの受け売りですけど」
「あたしにも、そういう時が来るのかしら?」
綾の縋るような視線が、繁徳を捕らえた。
「たぶん」
繁徳は諭すような気持ちで頷いた。
たぶん、きっと。
繁徳には、綾にも出会いの時が訪れる、そんな確信があったのだ。